沫雨恋愛
「‥一ノ瀬は‥バスケはいつから始めたの‥?」
あたしは必死に話題をそらした。
「中学からだよ。藤野は?なんか部活とかやってなかったの?」
「中学のときは‥一応テニスやってたけど‥」
当時読んでいた漫画に影響されて入ったテニス部。
でもぜんぜん上達しなくて‥
高校に入っても続けようとは思わなかった。
‥いつもそう。
「‥一ノ瀬はすごいね。バスケ、すごい上手くて‥。」
‥あたしには‥なにもないから‥。」
あたしには‥人より少しでも"できる"ものが何一つなかった。
何をやっても上手にはできなくて
特技とか自慢とかなんにもなかった。
‥自分に自信がなかった。
だから‥恋をしても
「どうせあたしじゃ無理だ」
って決めつけて
想いを伝えようとも思わなかった。
誰かに‥好かれる自信がなかったんだ。
「勉強も運動も‥全然普通だし。
ほんと、何も持ってない‥」
‥なんとなく、気まずくて
あたしは一ノ瀬から視線を逸らして
遠くに見える街灯を見つめた。
チカチカと‥点いたり消えたりしていた。