沫雨恋愛
海
海岸についた頃には日も落ち始めていて
辺りも薄暗くなっていた
海水浴をする人もほとんどいない、
とても静かな海岸
一ノ瀬とあたしははその海岸の砂浜を
ゆっくりと歩いていた‥
あたしたちの住んでいる街は
バスで1時間ほど行くと、海に出る
バスに乗っている間、
あたしたちは一言も話さなかった。
さっきの一ノ瀬の泣きそうな顔が脳裏に焼き付いていて‥
何を言えばいいのかわからなかった。
一ノ瀬も一ノ瀬で‥
ただ窓の外を見続けていた
それはこの海岸に着いても同じで‥
一ノ瀬は何も言わずに
海を見ながら歩き続けている
あたしも‥黙ってその後ろを追い掛けた
――この距離が、わずらわしかった。
近づきたくても、近づかない距離
近いようで 遠い一ノ瀬の存在
‥全然変わらない、あたしたちの関係。
これだけの時間を一緒に過ごしてきたのに‥
あたしは一ノ瀬を、何も知らない。
それが‥悔しかった‥