風にキス、君にキス。
柚Side
愛しい記憶
「拓巳、最近調子いいね」
「まぁな。次の大会は絶対勝つし!」
「隆史先輩、そろそろ受験に専念しなくていいんですか?」
「大丈夫!…じゃない」
「あらら」
相変わらず部室は騒がしくて
だけど確実に時は流れて
部長の座は隆史先輩から雄大先輩に譲られ
もう秋が、巡ってきた。
「そろそろ上がろうか」
「はいっ」
…あれから誰も、もちろんあたしも日向の話題を口にしない。
理由は…たった一つだった。
「誰とも会いたくないんですって…
あの子がそう拒んだの」
陸上部だった。
そう知らされたあの日から、日向は人と会うことを拒むようになった。
おばさんは静かにそう告げた。
「あの子は…思い出すことが怖いんだと思うの」