風にキス、君にキス。
"脇引き締めて、腕しっかり振って"
"呼吸のリズムをしっかり整える"
"足の裏をべたんとつけるんじゃなくて、軽やかに"
小さい頃から、日向は偉そうで。
…あたしの走り方をあれこれ指摘してきた。
「っ…!」
足が折れてしまうくらいの勢いで、必死に800mを走り切ると。
…体が、グラウンドに倒れ込んだ。
「っ…た…」
「頑張ったな」
「…え…?」
日向の声が聞こえたような、気がした。
…けれどそれはやっぱり、気のせいで。
そこには風と地面があるだけだった。
「日向…っ」
…なんで、忘れなくちゃいけないの?
そんなの…