風にキス、君にキス。
野菊に似た、紫色の美しい花。
気が付けば、立ち止まっていた。
…拓巳の優しい、優しい目があたしをまっすぐと見つめた。
「忘れる…って、難しいことだと思う。
不可能だと思う。忘れたら楽だなんて言うけど、忘れるという行為自体が果てしなく辛いものだと俺は思う」
「たく…」
「だけど」
だけど。
拓巳は強く、あたしに言った。
「忘れないことも大切だと思う」
「…っ」
「もしかしたら忘れるよりも難しいかもしれない」
その言葉は深く胸に響いて…いつまで経っても、消えなかった。