風にキス、君にキス。
どんな痛みにも耐える。
どんな努力でもする。
そう呟いた俺に、先生は静かに足を下ろすと…視線を合わせた。
「日向君」
「…」
「私達医者はね、君に淡い期待を抱かせることは出来ないんだ」
その目は何の曇りもなく。
…俺に、真剣に向き合ってくれている瞳だった。
「歩ける可能性はある。だけど、必ずしも歩けるようになるという期待は抱かせられない」
「…っ」
「歩けるようになったら、走れるようになるかもしれない。
…でも必ずしもそうだという、期待は抱かせられない」
だけどね、と静かに微笑みを向けた。
…優しい、笑みだった。
「期待は抱かせられなくとも、私達は君に希望を与えたいんだ。
…そのために、いるのだから」