風にキス、君にキス。
「おや、日向君」
「リハビリ…よろしくお願いします」
「…わかった。頑張ろう」
翌日から、俺はリハビリを自主的に開始するようになった。
…前に進まなければ。
少しでも、今よりも前に。
そう思ったから。
「日向…リハビリ、頑張る気になってくれたの…?」
「…心配させてごめん、母さん」
ようやく素直に、そう言えた。
…記憶があっても無くても、俺の前では涙を見せずに傍にいてくれた母さん。
この人を…もう俺の弱さで、泣かせてはいけない。
「母さんはね、日向がいてくれるだけで嬉しいのよ」
「…わーってるよ」
涙ぐんで、そう微笑む母さんの肩を軽く叩いた。
「…痛い程わかってる」
―――記憶が戻ったことによって
失ったものもあった。
確かに、取り戻したものもあった。