風にキス、君にキス。
新たに手に入れたものも…ちゃんとあった。
もうそれで充分だ。
百つ何かを失っても、一つ何かを手に入れられればいい。
―――…それだけで、生きている意味はある。
そう気付くのには時間が掛かったけれど、でも確かに気付くことが出来たのだから。
以前と変わらない、温かな世界が。
…もう一度出会った、温かな人達が。
そう教えてくれたのだから。
「…母さん」
「何?日向」
「一つ頼みがあんだけど」
俺は静かに微笑んだ。
「…電話、貸して?」