風にキス、君にキス。



「もっ、もしもーし!?」


「…ふっ」


「えっ…!?」



自然に、笑みが零れていた。



「相変わらずだな…本当」


「っ…ひな、た…?」



柚の声が、少し落ち着いて。



…でも少し戸惑ったように、続けた。



「日向が電話くれるなんて、思わなかったよ…」


「ごめんな。やっぱり部活中だった?」


「ううん。今、帰り」




帰り、という言葉に再び外を見た。



秋や冬になると、空が黒くなるのが早い。



風も少し…冷たい。



どんくさい柚が一人で夜道を帰ることは、心配以外の何物でもなかった。



「…気を付けろよ」


「え?」


「変なのに襲われないように」


「う…うんっ」


「変なのを襲わないように」


「襲うわけないでしょっ」



そう笑う柚の声は、愛しくて温かかった。



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