風にキス、君にキス。
「…っ」
目覚めた時、もう涙は流れていなかった。
ただ心は静かで…
…その夢はきっと、何かの予兆なのだと…
そう、ぼんやりと思っていた。
「拓巳…タイム伸びたね」
「お、だいぶ朝練の成果が出たかな」
陸上は…たった一秒早く駆け抜けることが、有り得ない程に難しい世界。
だけど拓巳は必死に努力を重ねて…もう日向や雄大先輩達に負けないくらい、実力を付けていた。
毎回ストップウォッチを止める度に、それを感じていた。
「頑張ってるね」
「いや、まだまだ足んないって」
「…拓巳は、アスリートを目指すの?」
汗を拭くタオルを渡しながら、あたしはそう聞いてみた。