風にキス、君にキス。
凄く嬉しい。
凄く幸せ…なのだけど。
「…柚ちゃん?」
「あっ。お水…要りますか?」
あたしだけは…何があっても、忘れちゃいけなかった。
゙全てが戻った訳ではない゙
どんな幸せに呑み込まれそうになっても、それは忘れちゃいけなかった。
…日向の担当医の、先生の言葉が頭の中にはっきりと蘇って響いた。
「君に、彼を見ていて欲しいんだ」
「…え?」
「お母さんから聞いた話によると、走っている時の彼を一番良く見ているのは君のようだからね…
…だから、頼みたい」
日向が退院する時、先生はあたしをまっすぐと見つめて…言った。
「走っている時の彼から、目を逸らさずにしっかり見ていて欲しい」
その声は力強く、どこまでも深かった。