風にキス、君にキス。
花火
…高校二年の夏が来た。
一番の青春だと言ってもおかしくない時期。
「えー只今より」
ごほんと咳払いしてから、雄大先輩が両手を広げて言った。
「藤島学園陸上部夏合宿、開催ーっ!」
「おーっ」
あたし達を乗せたバスは、とびきり古いユースホステルの前に止まった。
ユースホステル。
響きは格好いいけれど、要するに若者向けの民宿のようなもの。
なんでも自分でやる、というまさに合宿向けの宿なのだけれど。
あたしがここを合宿場所に提案したのは、もちろん練習する環境が見事に備わっていたからだった。
…まず、大きな池を取り囲む道は朝のウォーミングアップにぴったりな距離。
ジョギングやマラソンをする人のための走るコースも完全に設けてあって、陸上部合宿にはこれ以上ない程にもってこいの場所だった。