風にキス、君にキス。



「足元見ないで、前見ろ。前」


「あと二周追加。バテんなよ」



顧問がいない分、互いに気付いたことを言い合う。教え合う。



それは藤島学園陸上部特有の良さだとあたしは思う。



「…よし。休憩」


「俺よりもあいつの方が部長向きじゃん」



後輩指導を続ける日向を見ながら、拓巳はスポーツドリンクを口に含んだ。



あたしは少し笑って、タオルを差し出す。



「でも拓巳の方が落ち着いてるもん。…日向は子供っぽいから」


「あ?誰が子供っぽいって?」



…う、聞こえてたんですね。




恐る恐る振り向くとそこには、汗を拭きながらあたしを睨み付ける日向の姿があった。



「あ…いや…その」


「お茶ひっくり返してストップウォッチを壊したマネージャーに言われたくねぇな」

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