風にキス、君にキス。
「柚ちゃん…?」
「…あ。こんばんはっ」
日向と別れてから、家に続く一本道を歩いていると。
…向こう側からこっちに向かって歩いてくる、見慣れた姿があった。
立ち止まると、それは日向のお母さんだとすぐに分かった。
「おばさん…お久しぶりです」
「買い物帰りでこっちを通ったのよ。
柚ちゃん、いつもありがとうね」
おばさんは相変わらず優しくて、温かい雰囲気で。
…話しているあたしも、心が温かくなった。
「いえ…こちらこそ」
「本当にありがとう…
…あなたがいたから、日向は今まで走って来られたんだと思うわ。
ずっとお礼を言いたかったのだけれど会う機会がなくて…本当にありがとうね」
少し疲れたような、だけどその目は日向に似てまっすぐとしている…おばさん。
…いつだって日向と共に苦しんで、きっと日向以上に涙を流したんだろう。