風にキス、君にキス。
そう言うと、おばさんは「ケチなのよ。あの子」と悪戯っぽく笑った。
誰かとこうして…日向の夢の話を出来ることが嬉しかった。
…なんだか、安心したから。
「いけない。そろそろ帰らなくちゃ」
「あ…では、また」
腕時計に目を遣ってそう言ったおばさんに会釈すると。
「最後の大会まで…よろしくね。柚ちゃん」
そう、あたしに頭を下げたから。
思わず戸惑った。
「っ、そんな!こちらこそ…っ」
「…ありがとう。本当に…あの子を走らせてくれてありがとう…」
足を負傷した時以上に
記憶を無くした時以上に
この時…おばさんが流した涙を、あたしは一生忘れることはないだろうと思った。