風にキス、君にキス。
この間、柚の表情が瞬きもなく日向を見つめていたこと。
それには気付かなかった。
気付くべきだったのに気付かなかった。
変に絡まっていた靴紐を引っ張ったせいで、ブツッ…とそれが千切れた時。
…嫌でも、不吉な何かを感じずにはいられなかったけど。
「柚、悪い。靴紐って持ってないか?」
…千切れた紐をなんとか結び付けようとしながら、そう聞いても。
柚は何も…言わなかった。
「ゆ…ず…?」
――――…耳元で風が、鳴った。
見上げれば、柚は無表情で。
…呼吸さえ忘れたかのように、まっすぐとグラウンドに目を向けたままだった。