風にキス、君にキス。




…その言葉は、中学で柚が陸上部をすぐやめた時にも聞くことになる。




「なんで?」


「…柚、見てる。」


「は?」


「…日向が走るのをね、ずっとここで見てるよ」




…なぁ、柚。



もしも時間が一度だけ戻るとしたら。



俺はあの頃に帰りたい。








――――やたら話さなくなった、中学時代。



柚はすぐに陸上部をやめて…どんくさいくせに家庭科クラブに入った。



一緒に帰ることもなく。



特に話すこともなく。



…俺も部活に打ち込んでいて、柚と特別に話したいという気持ちもなかった。




だけど。



…不器用な柚がくれた優しさが、いつもそこにあった。




「ほれ、日向。預り物」


「…へ?」


「髪が長くて綺麗で、ちょっと天然そうな感じの女の子が。…日向にってさ」



先輩を通して渡された、小さなタッパー。

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