風にキス、君にキス。
ぶっちゃけ陸上に関して"余裕"だったことなんて、これまで一度もない。
…柚は、違う言葉を使った。
"自信がある"と。
「いや、でも気持ちに余裕があるのは良いことだとは…」
「余裕なんてないですよ」
担任を軽く睨んで、俺は続けた。
「結果は努力や練習相応になるから。…不安がってる時間があったら練習しろってこと」
「…」
「努力してもどうにもならないことなんて、この世にはないんですよ。
…そんなの、努力が足らずに負けた奴の言い訳です」
そう、言い放って。
言葉をなくす担任に背を向け、俺はその場を立ち去った。
…でも、それはやっぱり"余裕"だったのだと。
今あるものに、与えられたものに甘んじていたのだと。
努力でもどうにもならないことが、この世界にはあるのだと。
…そう思い知らされることになるのは、もう少し先のことだった。