風にキス、君にキス。
そう考えた時、俺の目は不意にスタンドへと向けられた。
…そうだ…
引退する奴が…もう一人いるんだった…
…俺はマイクを握ると、まっすぐ前へと向き直った。
「俺達藤島学園陸上部三年は、この大会を最後に引退します。
素晴らしい仲間と…素晴らしい選手と共にこのフィールドを走れたことを非常に誇らしく、素晴らしく思います。
…えっと。
ここから先は…今回は欠場致しましたが、同じくこの夏を最後に引退する三年、相原日向に代わりたいと思います」
周りが、ざわついた。
…スタンドもざわついて、藤島の生徒全員の視線が日向に集まる。
日向は立ち上がって、怪訝そうな表情で俺に言った。
「おい拓巳、何言っ…」
「来い、日向。
…いいから。早く」
俺は静かにそう言って、マイクを差し出したまま。
…日向がスタンドから降りてくるのを、待っていた。