風にキス、君にキス。
日向は何度もその苦しみと戦ったよね…
…辛かった、よね…?
また涙が零れそうになったあたしを優しく包んだのは、「でも」と続けられた日向の言葉だった。
「でも。
…それでも俺は、陸上に出会えたことを後悔してないんです。
陸上に出会えた幸せな記憶を、失わずに済んで。
今凄く…幸せなんです」
日向の視線が…微かに動いて。
あたしを優しく見つめて、微笑んだ。
「っ…」
「生きていると…辛いことの方が多いのかもしれない。
だからこそ幸せを、幸せだと感じる。
…別れがあるから、出会いを幸せだと感じる。
陸上は…かけがえのないものを俺に与えてくれた、最高のスポーツでした」