風にキス、君にキス。
――――「ひなたっ」
「ゆず、競争しようぜっ」
「やだよ!ひなた、速いもん」
「…しょうがねぇなぁ。じゃ、ゆずのペースに合わせてやるよ」
「ううん、いい」
「なんで?」
「…ゆず、見てる。
ここで、ひなたが走ってるのずっと見てる。」
…そう。
柚がいたから、俺は安心して走って来れたのかもしれない。
誰よりも愛しい、誰よりも大切な君が傍にいたから。
いつも俺を見てくれている、存在があったから。
…だからこそ、言いたいことがあるんだって。
言わないといけない…ことが。
「ゆーず」
「…っ」
「…それ、俺のタオルなんだけど」
柚の隠れていた陰に、日向が差す。
…こいつの居場所なんて、すぐに見つけてやる。
「ひな…たぁ…」
ぐしゃぐしゃの顔で、泣きじゃくる柚の涙は。
…俺のタオルをぐっしょりと濡らしていた。