風にキス、君にキス。
…日向のいない部室は、やけに広く見えた。
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「日向、柚ちゃん来てくれたわよ」
「…おう」
「こんにちは」
おばさんにまず挨拶をしてもらってから。
…あたしは、日向の病室に入った。
「お加減…いかがですか?」
「別に頭が痛いとかはない。…けど」
日向は少し顔をしかめながら、色々と巻き付けられた重そうな足を眺めた。
「…"歩く"ってどういう感覚、なんだ?」
「…えっ…と」
言葉に詰まる。
…歩く、ってどんな感覚?
あまりに当たり前だったから、うまく説明出来ない。
「…っ、と…」
ゆっくりと、足踏みをしてみると。
日向が不意に吹き出した。
「何やってんだよ」
「だって、やってみた方が伝わりやすいかと…」