キテレポ 08-09
まだまだある。言い出したらきりがない。
根っからの阪神ファンである彼は、頻繁に甲子園に足を運ぶのだが、忘れもしない。5年前の対ヤクルト戦である。9回の裏、一打逆転のチャンスにバッターは古田。ツーツーと追い込まれて迎えた5球目、渾身の一振りで放たれた打球はレフトスタンドへ一直線に伸びていき、よそ見していた益子の脳天を直撃した。ニット帽を被っていた為、大事には至らなかったが、もしそのまま『ガッツリ当たりーの、パックリ割れーの、ポックリ逝きーの』していたら、翌日の朝刊の一面に“いろんな意味でサヨナラ”などと書き立てられ、お茶の間の笑い者にされるところであった。
ここまでくると逆に運が良いみたいに思えてくる。彼の前世が『生涯に3度も雷が落ちた男』というのは、物凄く頷ける話である。
益子登。37歳。何とも憎めない、味な男である。
淋病にも負けず
梅毒にも負けず
虫歯にも古田の一撃にも負けぬ
丈夫な体を持ち

中略

みんなに「凶運の持ち主ですね(笑)」とか言われ
「うん」とも言わず
「すん」とも言わず
そういう者に
私はなりたい
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