キテレポ 08-09
No.21

西本丈(53)ニシモトジョウ

この男、自らを悪魔であると信じて疑わない。何故か?黒が似合うからである。悪魔である以上、漆黒の衣装に身を包まなければならない。それも違和感なく、さらりと着こなさなければならないのだ。つまり、この『黒が似合う』という要素は実はとても重要な事なのである。日常的に、全身を黒でコーディネートしている奴を想像してみてほしい。「法事じゃねぇんだから。」おそらく誰もがそうツッコミたくなってしまうはずである。そこをいかに自然、且つ大胆に見せるか。これが悪魔の肝である。槍や先っちょの丸まった靴以前に、まずこの要素を満たす事が悪魔としての第一条件なのである。
とはいえ、槍と先っちょの丸まった靴は必要不可欠である。あらかじめ言っておくが、悪魔の代名詞でもあるそれらは『恐怖心を抱かせる為の物』ではない。あれは単なる『ウケ狙いの小道具』だ。「単なる」と言ってしまうと語弊があるかもしれないが、ラッキィ池田で言うところの『じょうろ』と同じような物と考えて頂きたい。ただ、槍と靴に関しては『代々受け継がれていく物』という世襲的な要素が含まれるので、そこだけは混同しないようにしてほしい。
そう。ここだけの話、悪魔は世襲制なのである。と言っても、血の繋がりは全く関係ない。(つまり世襲制ではない。) 悪魔の定年である55歳を迎えた段階で、次なる後継者に槍と先っちょの丸まった靴を授けるのだ。その時点で悪魔はようやくその役目を終え、普通のおっさんに戻るのである。だいたい53ぐらいになると、後継者探しの旅に出るのが通例で、選ばれた者は否応なく悪魔にさせられる。「最悪だ…。」誰もが最初はそう思うのだが、いざ悪魔の衣装に着替え、鏡の前に立ってみると「わりと有りだね。」などという言葉が自然とこぼれてしまう。西本丈に至っては「エロイ~ム エッサイム♪」とか口ずさみながら、先っちょを伸ばしては戻し、伸ばしては戻し、していたという。要するに、常人ではないのだ。悪魔も厳選に厳選を重ね、自分と同じにおいのする者を選ぶのだから、だいたいうまくいく。至極当然と言えよう。
悪魔の世界にこんなことわざがある。
『同じ靴のやり手』
同類のちょいと頭の悪い奴。そんな意味合いで使われているらしい。


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