キテレポ 08-09
話は20年前に遡る。
旅先は草津。4人の多数決によって決められた場所である。しかし、若干1名、どうしても納得のいかない分からず屋がいた。他でもない。照美である。
彼女が行きたかった所は、草津とは別の方角にあった。絶対に譲れない気持ちもあった。「だったら私は行きません。」とか言って、同情票的なものを得る作戦もあるにはあった。しかし、何の勝算もない。それこそややこしい事になるだけだ。そう判断した彼女は、渋々草津行きを了解した。
何はともあれ、彼らの旅は始まった。カローラに乗り込み、いざ出発。運転は照美の夫(照夫)が担当した。助手席の照美は、地図を見ながら目的地まで誘導する係を任された。まだカーナビもない時代である。
朝9時に東京を発ち、着いたのが11時前。予定より3時間近く早い。それもそのはず。ここは群馬じゃない。千葉だ。もっと言えば、ディズニーランドだ。照美がどうしても行きたかった夢の国だ。そう。高柳照美は五十嵐夫妻が後部座席でウトウトしているのをいい事に、また、夫の照夫が自分に逆らえないのをいい事に、草津とは全く別の方向に誘導したのである。そもそも温泉なんか入りたくなかったのだ。彼女が入りたかったのは『イッツ・ア・スモール・ワールド』なのだから。
この一件以来、2人は一切口を利いていない。無理もない。『方向性の違いによる解散』と言えよう。
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