キテレポ 08-09
No.30
由良梢(39)ユラコズエ
世の中には様々な逃げ方がある。
食い逃げ、持ち逃げ、振り逃げ、夜逃げ…。
中でも、40歳前後の独身女性から圧倒的な支持を得ているのが、犬逃げである。勿論、猫逃げを図る者もいるが、8割方犬逃げである。
だいたい38歳を過ぎた辺りで、最寄りのペットショップが気になり始める。ショーウィンドウから覗く子犬の視線が気になり始める。それから少しすると、店内で小一時間を過ごす日々が続くようになり、紆余曲折を経て、最終的にはチワワに負ける。チワワの涙目で落ちる。このパターンで犬逃げに走る女がほとんどである。
そんな中、最後の最後までチワワの誘惑に負けなかったのが、今回の主人公、由良梢である。
哀しげな目をして、プルプル震えるチワワに「クゥ~ン」なんて言われた日には、誰だって(そのか細い身体が壊れないぐらいの丁度いい力で)ギュッと抱きしめて、「ヨチヨチヨチヨチ~」なんて、頬ずりしたくなるものだ。それを回避するのは容易ではない。普段の4倍~5倍、いや、3倍のエネルギーを必要とする。チワワもチワワで、母性本能のくすぐり方をちゃんと心得ていて、極端に瞬きの回数を減らして、いつもより多めに涙を浮かべたり、しばらくの間正座して、震えにリアリティーを持たせたりしているのだから、なおさらである。
実際、由良梢も相当苦戦した。序盤から中盤にかけては、それこそ立っているのがやっとだった。財布に手を伸ばすのも時間の問題だった。
しかし終盤、チワワの「クゥ~ン」に合わせて、カウンターの右フックを(自らの右頬に)叩き込み、形勢を立て直すと、そこからは怒濤の勢いで、ほっぺたを引っ張ったり、乳首に爪を立てたり、右足で左足を踏み潰したりして、チワワの攻撃をかいくぐり、フラフラになりながらも見事勝利を収めたのである。
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食い逃げ、持ち逃げ、振り逃げ、夜逃げ…。
中でも、40歳前後の独身女性から圧倒的な支持を得ているのが、犬逃げである。勿論、猫逃げを図る者もいるが、8割方犬逃げである。
だいたい38歳を過ぎた辺りで、最寄りのペットショップが気になり始める。ショーウィンドウから覗く子犬の視線が気になり始める。それから少しすると、店内で小一時間を過ごす日々が続くようになり、紆余曲折を経て、最終的にはチワワに負ける。チワワの涙目で落ちる。このパターンで犬逃げに走る女がほとんどである。
そんな中、最後の最後までチワワの誘惑に負けなかったのが、今回の主人公、由良梢である。
哀しげな目をして、プルプル震えるチワワに「クゥ~ン」なんて言われた日には、誰だって(そのか細い身体が壊れないぐらいの丁度いい力で)ギュッと抱きしめて、「ヨチヨチヨチヨチ~」なんて、頬ずりしたくなるものだ。それを回避するのは容易ではない。普段の4倍~5倍、いや、3倍のエネルギーを必要とする。チワワもチワワで、母性本能のくすぐり方をちゃんと心得ていて、極端に瞬きの回数を減らして、いつもより多めに涙を浮かべたり、しばらくの間正座して、震えにリアリティーを持たせたりしているのだから、なおさらである。
実際、由良梢も相当苦戦した。序盤から中盤にかけては、それこそ立っているのがやっとだった。財布に手を伸ばすのも時間の問題だった。
しかし終盤、チワワの「クゥ~ン」に合わせて、カウンターの右フックを(自らの右頬に)叩き込み、形勢を立て直すと、そこからは怒濤の勢いで、ほっぺたを引っ張ったり、乳首に爪を立てたり、右足で左足を踏み潰したりして、チワワの攻撃をかいくぐり、フラフラになりながらも見事勝利を収めたのである。
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