キテレポ 08-09
実際のところ、チャンスはいくらでもあった。
容姿端麗で身長はモデル並み。チン長は馬並みでいわゆるディープインパクト。親父は官僚でいわゆる勝ち組。お袋はアメリカ人でいわゆる持てる者。爺さんは三億円事件の首謀者でいわゆるラッキーボーイ。要するにモテモテの系譜だ。ただ彼の場合、持ち前のあがり症とヘタレ症がつっかえ棒となり、ここぞという時にいつも腰に異常をきたした。
「今日無理だ…。」
そんな風に先送りにして、20代を棒に振った。
そんな彼も35を迎え、さすがに焦りを感じたのだろう。あれだけ「金の力で童貞を卒業する」という行為に否定的だった男が、ここへきていきなり「プロじゃなきゃオッケー。セミプロならギリギリセーフ。」とかいう修正案を提示して、50代後半のマッサージ師を平然と(何の違和感も抱かずに)抱いたのである…。
(要するに通常のマッサージ料金に5000円ばかり上乗せして、スペシャルなマッサージを施してもらった訳だ。直前になって腰に異常をきたしても、これなら安心という訳だ。何せ彼女はこの道30年のリアルなマッサージ師だ。揉みほぐしてもらえばどうにでもなる。
実際、ビックリするほど腰がスムーズに動いた。器のごわつきが半端じゃなかったのは紛れもない事実だが、そこはご愛嬌。おばちゃんの献身的な働きを考えれば「痛い」だの「きつい」だの言えるものか。)
彼はこれまでの鬱憤を晴らすかのように、濃い膿のような液体を思いっきりぶちまけた。濃い膿のような(ちょい黄色いような)液体をおばちゃんの体のあっちゃこっちゃに撒き散らかした。

かくして、彼の卒業式は「無事」終了した。しかし、親友の高橋君にとってそれは「有事」以外の何物でもなかった。そりゃそうだ。いくら親友と言えど、やっていい事とやっちゃいけない事がある…。そう。いかなる理由があろうとも、親友の母親とは「やっちゃいけない」という事だ。それが許されるのは唯一、ペタジーニだけだ。とはいえ、いくらペタジーニでも1試合に5ホーマーは打てないだろう…。しかもデビュー戦での事だ…。

大和志音。とんだホームランバッターの誕生である…。
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