キテレポ 08-09
要するに、子どもたちをがっかりさせたくはないが、がっかりさせてしまっているのが実情で、生きていくためには仕方のないことなのだが、理想を言えばやっぱりオスを供給したいのだ。
「『子どもに優しく、地球に優しく。』大事なことよ。次世代に豊かな地球環境を残すことが私たちの使命なの。分かるでしょ?メスばっかりだと示しがつかないの。」
確かに、彼女は優しい。
だが、その過剰なまでの優しさが人々を困惑させる。
『過ぎたるは及ばざるが如し』
どうやら(エースをねらえ世代の)彼女には、この言葉の意味が理解できないようだ。

彼女の歩き方を見てほしい。
そうっと歩いている。地球に負担をかけないように、ゆっくりと静かに歩いている。
地球を気遣いすぎて、まともに歩けないでいる。
地球が痛がると思われるので、なるべくハイヒールは履かないようにしている。地球に刺さると可哀想なので、履いたとしても爪先立ちを基本としている。
それだけではない。
彼女の呼吸音に耳を傾けてほしい。
CO2の排出量を抑える呼吸法を実践している。具体的に言うと、呼気1に対して吸気2。つまり「スーハー」ではなく「スーーハッ」。24時間これで生活している。
タエコの背中を注意深く見てほしい。
背毛に覆われていて見えにくいかもしれないが、黒字ではっきりと「eco」と刻まれている。
タンスの中を見てほしい。
「eco」という刺繍入りのメッセージTシャツが色違いで13枚も揃っている。
長女の名札を見てほしい。
マッキーで「恵子」と記されている。

「『できることから始めよう』そんな悠長なこと言ってちゃダメよ!できないことなんかないわ!あんたたちがやろうとしてないだけよ!」

幼いころ恵子が“ゴムのような物”を執拗に燃やしたのは、母に対する当て付けに違いない。
ただ勿論、“母も普通の女だった”ということに気付いたのは、それから何年も後のことだ。
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