偽装婚約~秘密の契約~
謎の女
「ただいま」
リビングへ戻ると瑞季さんがいて。
『お帰りなさいませ』
気づいたらもう、クセになっていた。
この部屋に戻ってきたら
「ただいま」
って言うことが。
瑞季さんが、あたしの隣にいることも、最初だけ違和感を感じただけで、今じゃもう当たり前。
毎朝、起きてからあのブレザーに袖を通すことも、当たり前で。
晴弥と森本の車に乗って学校に行くのも、当たり前になっていた。
右も、左も、前も、後ろも。
何も分からないこの世界に飛び込んで。
あたしは生きて帰られるのか、
最初はそう思いながら過ごしていた。
でもそれは、初日だけで。
と、言ってもそれからはレッスンだったり、初学校だったり、立ち止まってる暇がなくて。
気づいたらもう、晴弥のご両親にあいさつまでしちゃって。
何やってんだろ…
そんなことを、さっき空を見上げながら考えていた。