偽装婚約~秘密の契約~
「晴弥のお父さん…いい人ですね」
『それはもう、とても素晴らしい方です。
あの性格でなければ、ここまで遊馬電器は大きくなっていないと思いますよ』
瑞季さんがふっと微笑む。
「お父さんに…偽装婚約のこと、バレちゃいました」
そう言うと瑞季さんは特に驚いた顔をするわけでもなく、至って冷静な表情で言った。
『左様ですか。
まあでも、晴弥様はバレること承知だったと思います。
旦那様に隠し事ができないことは、晴弥様が1番知っていると思いますから』
じゃあ…何?
お父さんが言っていたように、お母さんにだけ、バレないようにすればいい、ってこと?
『心配なさらなくても大丈夫です。
今日の沙羅様は、完璧でしたから』
「………ありがとうございます」
ほぼ無心の状態で自分の部屋に戻り、ベットに倒れ込んだ。
「………はぁ…」
気づくと、溜め息が出ていて。
なんについての溜め息なのか分からない。
ただ、なんだか張り詰めていた糸が切れたような、そんな感じ。
『……ったく、無防備だな、沙羅』
「…………………………っ!!」