偽装婚約~秘密の契約~
『沙羅?忘れたのか?
俺が、なんて言ったのか』
「わ、忘れたわよ!」
ホントは覚えてる。
一字一句、完璧に。
『仕方ないなぁ。
もう1回だけ、言ってやるよ』
晴弥はそう言ってあたしの耳元であの言葉を囁く。
『いいこと…しような?』
………タイム。
ちょっと…待って。
なんなの?
あたしの心臓。
アリエナイくらいの速さで動いてるんですけど。
『そんな熱い目で見んなよ』
「見てないっ!」
そう言ったって、コイツにはなんの効果ももたらさなくて。
あたしと晴弥との顔の距離約30㎝。
晴弥はニヤッと笑っていて。
ホント…やめてほしい。
なんとかしてここから逃げられないかと頭をフル回転。
あっ!あの手がある。
思いついてしまったあたしは精一杯の大きな声で叫ぶ。
「み、瑞季さーん!」