偽装婚約~秘密の契約~
その日のあたしはたぶん、相当ヒドイ顔をしてたと思う。
その証拠に芽依には
「ここに、しわ、寄ってますけど?」
なんて眉間を指さされて言われたし、
ジュウゴには
『そんな顔してっと、誰も近寄んねぇーぞ』
ってニヤニヤされて言われるし。
でも、分かんない。
自分がそんな顔をしてる理由。
胸は相変わらず、ズキズキと痛くて。
モヤモヤが溜まってて。
さっきの光景が頭から離れない。
『ま、晴弥に聞けば全部、解決する…かもな』
ジュウゴの真剣な横顔。
何よ、その解決する『かも』って。
なんで『かも』を付けるワケ?
そういう気になる言い方をするのはやめてほしい。
「ジュウゴ、誰か知ってるんでしょ?」
『まあ…この学校の有名人だし』
さっきの女の子が…?
顔はよく見えなかった。
髪の毛は黒のセミロング。
背は…150㎝くらいだったような。
「誰なのかくらい教えてよ。
晴弥との関係は別に言わなくてもいいから」
そう言うとジュウゴは溜め息をつき、ボソッと言った。
『沙羅は紫水(シスイ)って老舗着物ブランド…知ってるか?』
「もちろん」
現代風の着物から
昔風の着物まで、あらゆるデザインの着物を作っている。
それが老舗ブランド紫水。
『そこの令嬢…長門 あずさ(ナガト アズサ)』