偽装婚約~秘密の契約~
「ヤだ!
あんたの言葉なんて信じらんない!」
晴弥の腕の中であたしは叫ぶ。
不思議と、冷静なあたしがいた。
そして、さっきとは打って変わって落ち着いた声で言う。
「朝、あずさに抱きつかれて。
そんなときのあんたはありえないくらい、優しい目であずさを見てた。
それでも、あずさとなんでもないんだ、って言える…?」
晴弥の腕の力が緩んだのが分かった。
そのタイミングで腕の中から逃げ出す。
「何?なんにも言わないの?
やっぱり、あずさとなんかあったんだ?
それとも過去のことじゃなくて、現在進行形かな?」
なんて可愛げのない、ヤツなんだろう。
でも、あたしの口は止まらない。
「いいよ、別に。
あずさと付き合ってようが晴弥の勝手だよ。
でも、あんた…言ったよね?
あたしに、洋介と別れろ、って。
なのに自分には彼女がいるって、理不尽じゃん。
それともあたしの弱みを握ってるからなんにも口出しできないだろ?
って考えてるからあずさとも付き合い続けてるワケ?
ってか、あんたサイテーだよ。
あずさがいながらあたしにキスするなんて。
ホント、信じらんない。
マジで見損なった。
もうあたしに近寄らないで」
一方的に喋って、また、部屋にこもる。
でもリビングからは何も音が聞こえてこなくて。
さすがの晴弥も堪えたのかな?
なんて、考えていた。
そして、気づく。
胸が、張り裂けそうなほどにズキズキと痛んでいることに。