偽装婚約~秘密の契約~
『お帰りなさいませ』
『俺はもう休むから』
瑞季さんにジャケットを渡しながら晴弥が言う。
『お風呂のほうは?』
『朝入るから準備を頼む』
『かしこまりました』
『じゃ』
晴弥はネクタイを緩めながら部屋へと消えていった。
『……沙羅様?』
瑞季さんに声をかけられ慌てていつもの顔を作って顔をあげる。
「…なんですか?」
『何か…ありましたか?』
「え……………?」
瑞季さんと視線が交わる。
瑞季さんの目は吸い込まれそうなほどに澄んでいて。
このまま、吸い込まれてしまいたい。
そんなことを思った。
『何か…あったんですか?
今にも涙が零れそうですよ?』
「え…」
ゆっくりと頬に触れた。
そうするとなぜか頬は濡れていて。
「………なんで…」
だんだん視界が霞んでいく。
『沙羅様……』
瑞季さんの顔は歪んで。
涙がボロボロと溢れて止まらない。
「……なんでも…なんでもないんです…」
それだけ言って走って部屋へ逃げ込んだ。
そしてベットにダイブ。
そのまま、声をあげずに泣いた。
涙が枯れるまで
泣いて
泣いて
泣きまくった