偽装婚約~秘密の契約~
『森本はジュウゴ様の家にいらっしゃるので私が運転させていただきます』
玄関の外には黒の高級車。
なんでお金持ちはこうも黒の車が好きなんだろう。
『ここから30分ほどでジュウゴ様の家に着きますので。』
後部座席に座って背もたれに体重を預ける。
車が動き出すとカーステレオからはあたしの好きなアーティストの曲が流れ出して。
さすが、瑞季さん。
細部までよく気が利いてる。
ぼーっとしていると晴弥とあずさの顔ばっかり浮かんで。
考えたくもないのに。
考えたら考えただけ自分が苦しくなるって分かってるのに。
なんで、あのことばっかり頭に浮かんで消えないんだろう。
晴弥の優しそうな目。
晴弥の優しそうな笑顔。
あずさの嬉しそうな顔。
芽依の苦しそうな目。
そして、あの言葉。
「2人は昔、付き合ってたんだ…」