偽装婚約~秘密の契約~



なかなか次の言葉を言おうとしない晴弥。

そんな晴弥に痺れをきらしたようにジュウゴが口を開いた。



『もちろん、親の犠牲になったのは俺たちだけじゃない。

晴弥とあずさだって、また、同じだ。


2人が付き合ってることは、知られちゃいけないことだった。


あずさには俺と同じく、許婚がいたんだ。

その許婚は遊馬電器のライバル会社の御曹司。


考えなくても分かるだろ?沙羅。

もし、バレたらあずさと晴弥は別れさせられる。


だから2人は周囲に付き合ってることを隠してた。


でも、ある日。

この話は学校中に広まった。


どこからもれたのかは分からない。

でも、ウワサはすごいスピードで広まっていった。


なんて言っても学校1の美少女と学校1の美青年の熱愛、だからな。』


晴弥は腕を組んで、俯いたまま動かなかった。



『そしてウワサはもちろん、あずさの親の耳にも入った。

あずさは学校に通うことを許されなかった。


学校に行きたいなら、今すぐ晴弥と別れろ。

あずさの親はそう、言ったんだ。


あずさは、悩んだ。

悩んで、悩んで、悩みまくった。


そんで、晴弥も考えた。

それこそ、熱が出て、ぶっ倒れるくらい、真剣に、考えたんだ。


どうしたら、別れなくて済むのかを。』


ナイフで刺されたことなんてないけれど、

でも、この胸の痛みはきっと、ナイフで刺されたときなんかよりも、ずっと痛いだろう。


ジュウゴの口から出てくることは、

どれも、これも、

晴弥がどれだけあずさを愛していたか、ってことだ。


グッと、堪えた。

いろんな真っ黒な感情が溢れ出さないように、グッと堪えてジュウゴの次の言葉を待った。







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