偽装婚約~秘密の契約~
「そ、そんな…
頭、上げてください」
あたしの目の前で世界の遊馬電器のトップに君臨する人が、頭を下げている。
なんだかとても申し訳ないキモチになった。
『私は、どうも心配性らしくてな。
晴弥がヘンな女に騙されないかと不安になるんだ。
でも沙羅さんなら安心して晴弥を任せられる。
そう、思ったんだ。
もちろん、キミのキモチが一番大事なのはよく分かってる。
晴弥は少し性格に問題はあるが
連れて歩くには何も不満はないはずだし、
お金に困ることもないだろう。
どうだろうか?
これ以上に最高の条件なんてないと思うんだ。
晴弥と…結婚、してくれないか?』
なんだか、自分を侮辱されてる気がして仕方なかった。
あたしはお金と結婚したいワケでもなければ
ルックスと結婚したいワケでもない。
「お言葉ですが」
一つ、大きく深呼吸。
今からあたしは世界の遊馬電器の社長にたてつくんだ。
「私は、お金があるからって幸せになれるとは思っていません。
顔がいいからって幸せになれるとも、思っていません。
私が結婚したいと思うのはその人だからです。
その人が貧乏だろうが、ブサイクだろうが、関係ないんです。
どんなに条件が良くてもそのお願いに素直に頷くことはできません。
申し訳…ないです。
お話は以上ですか?
そろそろ戻らなければならないので失礼させていただきます。」
一礼して立ち上がった。
そして呆然とするお義父さんに扉の前で深くおじぎをして、書斎を出た。