偽装婚約~秘密の契約~
『沙羅様の怒る気持ちはよく分かります。
でもあの言葉は旦那様が本当に晴弥様と結婚してほしいから言ったのだと思いますよ。
沙羅様を侮辱しているつもりはまったくないと思います』
瑞季さんはそう言って微笑んだあと、あたしに手を差し出した。
その手を握り、立ち上がる。
『さあ、戻りましょう。
晴弥様がきっと待っていると思いますよ』
そんな言葉に後押しされて仕方なく、パーティー会場へ戻る。
『あと1時間後にはきっと解散になります。
それまでの辛抱です。
頑張りましょう。』
パーティールームの扉の前で俯くあたしに瑞季さんが声をかける。
そして背中をそっと押す。
扉を開けるとパーティーはまだまだ盛り上がっていた。
中年のおじさん、おばさんが談笑している。
そんな中、あたしに鋭い視線を向けるヤツを発見。
ソイツはツカツカとあたしに歩み寄ると腕を掴み、部屋の隅へ連れて行かれる。
「……何よ」
キッと睨んでやると
『俺に黙ってどこへ行ってたんだ?』
なんて言葉とともにさっきよりもずっと鋭い視線を送られる。
「トイレよ、トイレ」
さっきの話はくれぐれも内密に、と瑞季さんに言われていたせいで本当のことは言えなかった。
『へぇ~
ずいぶんと長いトイレだったんだな。
お前が出て行ってから30分も経ってるぞ?』
さすがに、言い返すのはやめておいた。
だって晴弥、マジでちょっと怒ってる顔、してたんだもん。