偽装婚約~秘密の契約~





『まあいい。

でも2度と黙っていなくなるな。


お前は今日の主役なんだぞ?

分かったか?』


「…………うん」



仕方なく頷いた。

頷かないと晴弥、強く握った手首を開放してくれそうになかったし。



「……さらー!」


晴弥の横を黙って歩いているとあたしの名前を呼ぶ1つの声。

でもこの声は芽依じゃない。


振り向くと黒のドレスを着た


「………あずさ…」

がいた。


晴弥もあずさの声に気がついたのか足を止めた。

晴弥の横顔をチラッと見ると特に表情に変化はなくて。


ホッとするあたしと

なんであずさをこのパーティーに招待なんてしたんだろう、と考えるもう1人のあたしがいて。


そんなことを考える自分に嫌気がさした。



「キレイだね、沙羅。

やっぱり瑞季さんのメイクは天下一品ね」


なんて微笑むあずさ。


あずさも瑞季さんの手によってキレイにさせられたことがあるのだろうか。

いや、絶対、あるんだ。


じゃなきゃ『やっぱり』なんて言わないじゃん。


きっと、瑞季さんのメイクをあずさに施したらものすごく、キレイになるんだろう。

そしてあたしが着ているこのドレスもあずさが着たらもっと、似合うんだろう。


やっぱり…晴弥の隣がふさわしいのは、

あたしじゃない。



性格がひん曲がってて

でも優しいところもあって

これでもかってくらい、カッコイイ晴弥の隣がふさわしいのは、


あたしとは違って

お嬢様育ちで

絶世の美少女で

頭が良くて

誰にでも優しい、あずさなんだ――……













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