偽装婚約~秘密の契約~
家出少女
その日の深夜。
ちょうど、0時を告げる時計の鐘が鳴ったときあたしは遊馬家の玄関の前に立っていた。
「……お世話に…なりました」
手に持っているボストンバックには必要最低限の荷物だけが入っている。
それも全部、家から持ち込んだもの。
携帯は遊馬の名前で契約してあるから部屋に残してきた。
それに
「何も言わずに出ていってごめんなさい」
という置き手紙も部屋に残してある。
1日の疲労が溜まっている重い体を懸命に動かしながら当てもなく歩く。
晴弥…朝起きたら驚くかな。
それとも、怒るかな。
『まだ契約の半年経ってないだろ』
って。
でもさ、もうあたしの役目…終わったでしょ?
婚約披露も無事、終わって。
晴弥は18歳になった。
もう…あたしがあそこにいる意味はないでしょ?
だからさ、晴弥。
もういいよ。
あたしに気を遣って
あずさのこと、なんとも思ってないフリなんてしなくていいよ。
あんたなら、きっと、うまくやれるよ。
あずさとのこと。
紫水のほうも遊馬電器のほうも、あんたならなんとかできる。
だから、あたしのことは忘れて。
あずさと、幸せになってね、晴弥。