偽装婚約~秘密の契約~
強くなる、って決めたはずなのに。
弱い自分にはもう戻らないつもりだったのに。
全部、全部、要のせいだ。
要が優しいから。
要が、優しすぎるから。
『ときには我慢も必要だけどさ。
でも今、沙羅は我慢するときじゃないんだよ。』
要はあたしの横に座ると頭に手を置いてくしゃくしゃっとする。
『強気な沙羅でもやっぱり女の子なんだな』
なんて要の声が聞こえて。
「……うるさいっ!」
って鼻声で言った。
「あたしだってさ…バカじゃないんだよ。
だから、ちゃんと分かってるんだ。
逃げちゃダメだって。
ちゃんと向き合わなきゃダメだって」
空気を読んで葉山さんが部屋を出て行くのが分かった。
きっと、葉山さんだって瑞季さんと同じくらい優秀な執事さんなんだろうな。
「けど、ダメなんだ。
どんだけ頭で分かってても
体は正直でさ。
気づいたら荷物まとめて玄関に立ってた」
涙を堪え、声を絞り出す。
鼻声で鼻水まで出ちゃってきっとヒドイ顔してるんだろうけど。
でも、ここまで迷惑かけたなら
最後まで迷惑かけ倒してやろうって、開き直って。
要がもう聞きたくない、
そう言ってもやめてあげない。
それくらいの気持ちで話を続けた。