偽装婚約~秘密の契約~






『来たときからまったく変わりませんね、沙羅様は』


瑞季さんが顔をしかめるあたしを見て笑う。

大丈夫ですか?じゃなく、笑っちゃうところがなんとも瑞季さんらしい。



「それ、どういう意味ですか?」

来たときから進歩してない、ってことですか?



『いや、そんなマイナス的な意味じゃないですよ。

いい意味で変わってないですね、ってことです』


そのいい意味の内容が知りたい、とはあえて口に出さなかった。


黙って熱いココアを飲むあたし。

瑞季さんは特に何も言わない。


そう言えば、なんてホットココア、持ってきてくれたんだろう。


気分でホットココアを作ってくれたのは分かったけど…

でも、なんでこのタイミング?


カップから顔を上げると瑞季さんと目が合った。



『晴弥様にこんなことを知られたら怒られると思いますが、

それを承知で言わせていただきます。』


瑞季さんはいつも通りの柔らかい表情で言った。



『晴弥様がアメリカへ沙羅様を連れて行きたくないのは、

行く場所があまり治安のいい場所ではないからです。


治安のいい場所じゃないと言っても

日本に比べれば治安が悪いというだけでまだアメリカでもマシなところなんですが、


晴弥様はもしものことを考えて、

沙羅様を連れて行かないことにしたのです。』



またこの人は…

思わず心の中で苦笑い。




………あぁ、そうか。

そうだったのか。

あたしが晴弥のことをキライになれないのは

瑞季さんがこうして晴弥をフォローするからなのね。


いつだって瑞季さんのフォローは完璧で。

晴弥がすごく優しいヤツなんだと痛感することになるんだ。


今回みたいにね。











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