偽装婚約~秘密の契約~
それから数時間後。
あたしは初めて日本を出て、異境の地を踏んでいた。
『……さあ、行きましょう』
瑞季さんはそう言っていつものように微笑む。
その笑顔が、緊張しているあたしを少しだけ、楽にしてくれた。
「晴弥の居場所…知ってるんですか?」
『もちろん。森本に連絡を取ってありますのでご心配には及びません』
さすが瑞季さん。
安心したあたしは考えを巡らす。
なんて伝えようか、とか
いつ言おうか、とか
晴弥はどんな顔をするんだろうか、とか。
いろんなことを考えてみる。
でもどれも納得のいく答えなんて出なくて。
考えても無駄だということに気がついたのは
車が動き出して30分ほど経った頃だった。
『もうすぐ遊馬電器ニューヨーク支社に到着します。
ただ今、晴弥様はそこで研修中です。
会えるかどうかは分かりませんが
行くだけ行ってみましょう』
瑞季さんの言葉に頷いた。
晴弥…突然、あたしが目の前に現れたらどう思うのかな?
嬉しい?
それとも…ただ邪魔なだけ?