偽装婚約~秘密の契約~





それから数時間後。

あたしは初めて日本を出て、異境の地を踏んでいた。



『……さあ、行きましょう』


瑞季さんはそう言っていつものように微笑む。


その笑顔が、緊張しているあたしを少しだけ、楽にしてくれた。




「晴弥の居場所…知ってるんですか?」


『もちろん。森本に連絡を取ってありますのでご心配には及びません』


さすが瑞季さん。

安心したあたしは考えを巡らす。


なんて伝えようか、とか


いつ言おうか、とか


晴弥はどんな顔をするんだろうか、とか。


いろんなことを考えてみる。


でもどれも納得のいく答えなんて出なくて。


考えても無駄だということに気がついたのは

車が動き出して30分ほど経った頃だった。



『もうすぐ遊馬電器ニューヨーク支社に到着します。

ただ今、晴弥様はそこで研修中です。


会えるかどうかは分かりませんが

行くだけ行ってみましょう』


瑞季さんの言葉に頷いた。

晴弥…突然、あたしが目の前に現れたらどう思うのかな?


嬉しい?

それとも…ただ邪魔なだけ?









< 261 / 295 >

この作品をシェア

pagetop