偽装婚約~秘密の契約~






『あくまでも、晴弥様に契約打ち切りを申し出る、と?』


「はい」


『その意志は固く、曲げることはできない、と?』


「………はい」


『そう…ですか』


瑞季さんは苦笑いで呟く。



『あと2ヶ月…時間があれば…』


え?あと2ヶ月、時間があれば…何か起こるの?

疑問が表情に出ていたのか慌てて瑞季さんが言う。



『いや、今のは気にしないでください。


もう…ホントに、なんとかならないですか?

私は…沙羅様がいなくなるのは、イヤです。』



「何言ってるんですか…?」


『本心です。


ここだけの話、晴弥様は変わりました。


沙羅様が、遊馬家に来てから晴弥様は、変わりました。


あれほど冷酷だった目が、今は柔らかく、温かくなったんです。

あれほど何事にも無関心だった晴弥様が、
沙羅様に興味を持ったんです。


分かりますか?

あなたが、あの晴弥様を変えたんです。


正直、森本も私も驚いています。

そして、沙羅様に深く、感謝しているのです。


あのまま、晴弥様が大人になっていたら

彼は、ヒドイ人間になっていたと思います。


でも沙羅様のおかげで、その心配は必要なくなりました。


だから、沙羅様にいなくなってほしくはないのです。

これからもずっと、晴弥様の隣で、

晴弥様を、支えていてほしいのです。』


そんな瑞季さんの必死の訴えはあたしの胸を強く、打った。


でも、さっきも言ったでしょう。

あたしの意志は固いんです。


だから



「イヤです。

アイツに振り回されることに、もう…疲れたんです。」



やめて、瑞季さん。

そんな切なげな目で、あたしを見るのは。






< 267 / 295 >

この作品をシェア

pagetop