偽装婚約~秘密の契約~
『あくまでも、晴弥様に契約打ち切りを申し出る、と?』
「はい」
『その意志は固く、曲げることはできない、と?』
「………はい」
『そう…ですか』
瑞季さんは苦笑いで呟く。
『あと2ヶ月…時間があれば…』
え?あと2ヶ月、時間があれば…何か起こるの?
疑問が表情に出ていたのか慌てて瑞季さんが言う。
『いや、今のは気にしないでください。
もう…ホントに、なんとかならないですか?
私は…沙羅様がいなくなるのは、イヤです。』
「何言ってるんですか…?」
『本心です。
ここだけの話、晴弥様は変わりました。
沙羅様が、遊馬家に来てから晴弥様は、変わりました。
あれほど冷酷だった目が、今は柔らかく、温かくなったんです。
あれほど何事にも無関心だった晴弥様が、
沙羅様に興味を持ったんです。
分かりますか?
あなたが、あの晴弥様を変えたんです。
正直、森本も私も驚いています。
そして、沙羅様に深く、感謝しているのです。
あのまま、晴弥様が大人になっていたら
彼は、ヒドイ人間になっていたと思います。
でも沙羅様のおかげで、その心配は必要なくなりました。
だから、沙羅様にいなくなってほしくはないのです。
これからもずっと、晴弥様の隣で、
晴弥様を、支えていてほしいのです。』
そんな瑞季さんの必死の訴えはあたしの胸を強く、打った。
でも、さっきも言ったでしょう。
あたしの意志は固いんです。
だから
「イヤです。
アイツに振り回されることに、もう…疲れたんです。」
やめて、瑞季さん。
そんな切なげな目で、あたしを見るのは。