偽装婚約~秘密の契約~






「瑞季さんが言うように、あたしは晴弥を変えたかもしれない。


でも。

だとしても、あたしはアイツについて行くことはできない。


今までさんざん、アイツに好き勝手やられました。


未練はないけど、あの頃は大好きだった洋介と別れさせられた。

あのとき、あたしがどれだけ辛かったか、分かりますか?


それに、人をさんざんおちょくって

こっちがその気になったら

突然、本命が現れて。


そんなあたしのキモチ、分かりますか?


あ、そうだ。

やめてくださいよ、瑞季さん。

もう


晴弥様とあずさ様は切れています。

っていうのは聞き飽きたので。


いくら瑞季さんが言っても

あたしは、どうしても信じることができないんです。



確かに、晴弥のもとを去るのは辛い選択です。

まだ契約中ですし。


でも、それでも、これ以上あたしはアイツを好きになっちゃいけないんです…

このキモチを止められるうちに、止めておきたいんです。


今、アイツから離れれば、

このキモチは…大きくなることもなく、きっと…消えて…なくなってしまうから…だから…」


そこまで言って最後は言葉にならなかった。

大粒の涙が突然、溢れてきたからだ。


そして、あたしは突然聞こえたその声に。

耳を、疑った。



『……沙羅…』



「…………………はる、や…」













< 268 / 295 >

この作品をシェア

pagetop