偽装婚約~秘密の契約~
「なんで…なんであんたが…」
どっか行ってたんじゃないの?
それなのにどうして今、晴弥があたしの目の前にいるの?
『父さんにお前に客人だ、って言われて。
今すぐ会いに行け、って言われたから…来たんだ…
なんでだよ、沙羅。
昨日、電話したときは日本だったろ?』
「……あんたが淋しそうだったから来てあげたの」
零れた涙を急いで拭う。
『沙羅が淋しかっただけだろ?』
晴弥はそう言って真っ直ぐにあたしを見つめる。
今までだったら絶対に、悪戯っ子のような笑顔で笑っていたのに。
どうしてそんな目であたしを見るの?
「さっきの…聞いてた?」
『……少し』
ああ…サイアクだ。
今すぐ、ここを去りたい。
そうは思っても
あたしにはやらなくちゃいけないことがある。
「なら話は早いね」
そう言いながら鞄の中から契約書を取りだし、
晴弥の前に突き出す。
そして、言った。
「お願い、晴弥。
契約…今日で終わりにしよう」