偽装婚約~秘密の契約~
『……待てよ』
部屋を去って行こうとするあたしに晴弥が声をかける。
お願いだから。
早く、あたしをここから出して。
そうじゃないと、涙が…溢れちゃう。
『最後に1つ、聞かせろ』
「…………何よ?」
声を震わせることなく、
いつもの調子で言った。
『沙羅は…俺に、何を望んでた?』
………ねぇ、どうして。
どうして今、そんなことを聞くの?
胸が痛くて。
死んじゃうんじゃないか、そう思うほどに心臓が激しく波打っていた。
「何も望んでなんていなかった。
けど…しいて言うなら」
最後だから…いいよね?
あたしの素直な気持ち、言っても…いいよね?
「好きだ、って言って欲しかった。
あたしは、ただ、一言。
晴弥に、好きだ、って…言って欲しかった…」