偽装婚約~秘密の契約~




最後まで言い切る前に涙は溢れて。

きっと、語尾が震えていた。


あたしは逃げ出すように部屋を飛び出た。


廊下には瑞季さんがいて。

泣きながら部屋を出て来たあたしを見て、驚いていた。


そんな瑞季さんの前を走って通り過ぎる。


1人になりたかった。

1人で大声で泣き叫びたかった。


でも



『………お待ちくださいっ!』


瑞季さんに腕を掴まれて。



「……離してっ!

お願い…だから、離してっ!」


瑞季さんの手を振りほどこうとした。

でも相手は大人の男の人。


あたしの力なんて敵うはずがなくて。


瑞季さんはあたしの腕を引っ張って、非常階段のほうへ連れて行く。



その間も溢れ続ける涙。

それもさっきより量が増して。


なぜなら淡い期待が消えてしまったから。


晴弥があたしを追いかけてくれるんじゃないか。

そんな、淡い期待がなくなったから。


だって今、廊下には誰もいないんだもの。

あたしがさっきまでいた部屋のドアは微動だもしなかったんだもの。



やっぱり…あたしは晴弥にとって


『契約書』なんていうもので繋がっていた

偽装婚約の相手でしかなかったんだね。


分かってたけど…

分かってたけど、やっぱり…










…………辛いよ―――………
















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