偽装婚約~秘密の契約~
『沙羅様、大丈夫ですか?』
非常階段には人っ子1人いなくて。
瑞季さんは優しい眼差しであたしを見る。
やめてよ…瑞季さん。
そんな目で見ないで。
今すぐやめてくれないと…
あたし、この涙、止められなくなっちゃうから。
『いいです。
私の前では強がらないでください』
瑞季さんはそう言ってあたしを優しく抱きしめた。
この匂い…あたし、知ってるよ。
だってこうして瑞季さんに慰めてもらうのは初めてじゃないんだもん。
いつだって晴弥に泣かされたあたしを慰めてくれる瑞季さん。
『あの…沙羅様。
1つ、提案があるんですが…』
「……なん…ですか?」
瑞季さんはあたしの耳元に顔を近づけてそっと囁いた。
『いっそのこと、晴弥様をやめて…俺にしたら?』