偽装婚約~秘密の契約~
『………はい、分かってました』
瑞季さんはそう言ってあたしから離れると微笑んだ。
その笑顔はどこか悲しげだったけど、
でも、すごくいい笑顔だった。
『さて、これからどうなさりますか?』
「戻ります、日本に。
そして…元の生活に。」
『かしこまりました。
責任を持って日本にお送りします』
そう言って瑞季さんは非常階段のドアを開けた。
どうしてこの人はここまで完璧でいられるんだろう。
取り乱すことは本当に少なく、
感情は決して表に出さない。
そんな瑞季さんを尊敬すると共に
心配だった。
いつも、そんなふうに自分を押し込むのって大変じゃないのかな。
少し…頑張り過ぎじゃないのかな。
「瑞季さん…あんまり、無理しないでくださいね」
エレベーターを待つ間、あたしはそう呟く。
そうするとあたしの後ろに立っていた瑞季さんがふてくされたように言った。
『そんなこと言っていいんですか?』
「……え?」
『だってそれ、我慢しないで、って意味でしょう?
今、我慢をやめれば俺は、沙羅様のこと、襲いますよ』
ビックリして振り向くと瑞季さんはニヤッと笑っていて。
「……からかわないでくださいっ!」
瑞季さんはそんなあたしを見て楽しそうに笑っていた。
そして気づくとあたしも笑顔になっていた。
ありがとう、瑞季さん。
あなたのおかげであたしはまた、笑顔を取り戻せた。
やっぱりあなたは、最高の『イケメン』です。